簿記検定・税理士受験生の常識バイブル-第5回-

チェック

簿記1級と簿記論の比較

日商簿記検定1級と税理士試験の簿記論はどちらが難しい?またどちらが合格しやすいのでしょうか。

  • 試験制度・出題範囲の違いは?
  • 日商簿記検定1級の特徴は?
  • 工業簿記・原価計算が鬼門
  • 管理会計と財務会計
  • 合格戦略の違い

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    参考(廃刊)

    旧税理士受験生の独り言廃刊になりましたが、参考ということで残しておきます。



    日商簿記検定1級と簿記論の違いとはなにか


    毎年どこかで必ず議論されるのが日商簿記検定1級と簿記論の難易度の比較です。つまり、どちらが合格するのが難しいのだろうと言うことですが、実際にはどうなのでしょうか。

    どちらも合格するのが難関な試験ですが、日商簿記検定は民間の公的資格で簿記論は国家試験である税理士試験の一部です。日商簿記検定は民間資格でありながら歴史・認知度・受験者数・人気度とどれをとっても常にトップに君臨するスーパー資格といっても過言ではありません。片や簿記論は国家試験である人気資格「税理士試験」の一部科目です。国家試験の風格・信用・知名度は抜群でこちらもかなりの人気があります。

    また、どちらも競争試験と呼ばれており、合格率は10%前後で一定なのも両者の共通する特色と言えます。どちらも「簿記」の試験なのですが、日商1級は大企業向けの会計担当者をイメージしているのに対して、簿記論は、主に税理士としての業務を行う対象である中小企業の会計を意識した出題傾向で、実務色も濃い出題内容です。日商1級では連結会計が頻出されるのに対して簿記論ではほとんど出題されませんし、また工業簿記・原価計算の管理会計は日商1級ならではの論点で、簿記論では財務会計しか出題されていません。このように内容は同じ簿記でも性質は意外と違うものではないでしょうか。

    以上の事を踏まえてもう少し詳しく分析してみましょう。

    やはり比較するのはやはり無理がある

    実際はどちらが合格するのが難しいのでしょうか。日商簿記検定1級は昔から税理士試験の登竜門と呼ばれ、合格者は税理士試験の受験資格が付与されることから、税理士試験の下の格付けで認識されることがひとつの考え方であったと思います。

    しかし、実際はそんなに単純ではなくて、日商簿記検定1級は年間に2回試験がありますが実際に合格するまでに1年以上要することと、簿記論も同じくらいの学習期間を要するため難易度は同じくらいと考えられています。また、前述したように日商簿記検定では管理会計が出題範囲になっており、むしろ日商1級ではこの管理会計の出来次第で合否が決まるので、個人的な見解ではありますが日商簿記検定1級と税理士試験の簿記論を比較するのは無理があると思います。

    両方の試験を受験された方なら分かると思うのですが、税理士試験はどちらかと言えばスピードと正確性、そして問題の取捨選択を効率的に行う眼力と、時間を意識した計画性が合否の鍵を握るのに対して、日商簿記検定1級では管理会計である工・原でどれだけひらめいて点数を稼げるかに勝負の重点が置かれると思います。つまり内容は似て非なるもので、合格する為の戦略は全然違ってきます。

    このような事から結論としてはやっぱり比較するのは無理があると思います。

    しかしそれで結論付けたら少し面白くありませんので、もう少し掘り下げてみましょう。どうして日商簿記検定1級は国家試験並に難しいのか?また、日商簿記検定の2級と1級では大きな壁があると言われますがどうしてなのか?その辺のお話をしてみたいと思います。

    日商簿記検定1級はどうしてそんなに難しいのか。それは工業簿記・原価計算の管理会計がネックになるからなのです。

    日商簿記検定1級の工業簿記・原価計算の特色

    日商簿記検定1級の工業簿記・原価計算・・・どれだけ多くの受験生が今まで泣かされてきたか想像に難しくありません。

    管理会計を知らない人にはピンとこないかも知れませんが、この科目はひらめきと応用力が問われるので一定のセンスが必要なんです。つまり、努力では超えられない壁が存在していて、応用力が身に付いていないと何年やっても合格しないのです。税理士試験にも応用力は問われますが、この工業簿記・原価計算については(オーバーかも知れませんが)そんなの比じゃありません。

    例えば簿記論ですと難易度が高くても努力に比例して学力も順調に伸びていきます。しかし、管理会計はひらめきとセンス次第なので努力だけではどうしようもないと言えます。また試験の時にひらめかなければ全く点数になりません。つまり0点です。しかも日商簿記検定には恐ろしいことに足切り点が存在します。1科目10点は取らないと他の科目がいくら点数が良くても落ちるのです。極端な話、80点でも不合格になる可能性があるのです。これが合格をより難しくしている要因ではあります。また、冗談抜きにして工業簿記・原価計算は0点か満点の試験なので当日のひらめきと応用が利かないと100%落ちるのです。

    つまり管理会計のセンスがある方は簿記論より日商簿記検定1級が簡単に感じる人もいるでしょう。やっぱり1級の会計学・商業簿記よりも簿記論の方がボリュームも難易度も高いと思います。しかし、管理会計のセンスはないけれど財務会計である簿記論のスピードや正確性を備えた方なら1級の方が難しく感じるのではないでしょうか。この辺は人それぞれですし、どちらが難易度が高いとか言い切れないと思います。

    ひらめきとセンスを磨こう

    工業簿記・原価計算はひらめきと応用力が命です。しかし、簿記論しか知らない人はいまいちピンとこないかも知れませんね。

    この科目を苦手にされている方は多いと思うのですが、実は自分のモノにしちゃうととんでもなく面白い科目になります。本当にヤミツキになりますよ!

    何がどう面白いのか誰でも理解出来るように算数で表現してみましょう。

    工・原の難しさと面白さの理解に役立てば幸いです。

    下図を参照して下さい。全ての角が90度の正方形・長方形の面積の求め方です。あえて解答は書きませんが、これくらいの算数は大丈夫でしょうか?

    四角形の公式

    え?!すごく簡単に感じましたか?実は工業簿記・原価計算もこれと同じように個別項目単体で学習すればそれほど難しいものではありません。

    次は三角形です。これも小学生で習いますよね。ちょっと忘れたという方もこの図を見れば思い出すのではないでしょうか。解答はいいですよね(笑)

    三角形の公式

    このように工業簿記・原価計算も個別項目をどんどん学習していくのですが、個別項目を完全に学習したとしても日商簿記検定1級はそんな簡単には合格は出来ません。

    上図のようにそのまま長方形や三角形の面積を求めるような出題のされ方がなされません。つまり、公式を丸暗記して合格出来るような甘い問題は出題されないのです。頭で考える応用力とひらめきを駆使して解答を導き出すように作問されているのです。

    ちなみに検定試験問題はどんな感じになるかというと、算数で例えるなら下図のような出題のされ方がされます。

    もしお時間がありましたら少しチャレンジしてみて下さい。考えるという意味合いを感じ取って下さい。

    応用問題

    どうでしょう。長方形や三角形の面積の求め方の公式を知っているだけで解けるものでしょうか。

    「こんなの習ってねーよ!」

    「こんな問題見たことないよ」。

    「訳わかんねーよ!」

    「(・∀・)オワタ!!」

    本番では大抵こんな反応になって、試験開始5分で今回も終わってしまったという方が多いのです。工業簿記・原価計算って恐ろしいですよ。

    全く見たことがない問題でも、何とか解決の糸口を見つけて解いた人間が合格出来る試験。それが日商簿記検定1級なのです。

    今回は算数で例えてみましたが、イメージとしてはそんな感じです。完全に公式を丸暗記したところで合格出来ないようになっています。そういう意味では日商簿記検定1級合格者は評価されてもいいのではないかと思っています。蛇足ですが、税理士試験の税法科目も近年ではこのように応用力を問うような出題のされ方に移行している感じになっています。

    特に日商簿記検定1級の工業簿記・原価計算は、個別論点も三角形や四角形のようにとっつきやすいものではなく、日常生活とはかけ離れた内容ですからなかなか身に付きにくいです。なので、個別論点ですら公式なりパターンを丸暗記して対応しようとするのですが、日商簿記検定2級まではある程度通用しても1級となると全く通用しません。個別論点を本当に理解していないと応用が利かない仕組みになっているのです。

    これから日商簿記検定1級を勉強しようという方は、この事をしっかりと肝に銘じて取り組んで下さい。合格は最終的な目的ですが、管理会計の本当の面白さは理解して初めて語れるものです。ネガティブな噂を聞いてやる前からゲンナリするよりも、未知の世界に足を踏み入れて、そう、冒険するようなワクワクする気持ちで挑戦してみて下さい。

    あ、そうでした。先程の問題の解答も掲載しておきますね。

    応用問題解答1 応用問題解答2 応用問題解答3 応用問題解答4 応用問題解答5

    いかがでしたか?この場合は加線=直線ではないことと、辺の長さや内角の角度は解答に不要だということです。工業簿記・原価計算の個別項目は沢山学びますから、その沢山ある中からどれを選択して上手に解答を導き出すのかっていうのを考えるのは面白いですよ。また、この問題は面積を三等分すればいいので組み合わせ次第では次のような別解も考えられますね。頭を使うってのは本当に楽しい!と思いながら勉強出来れば一石二鳥だと思います。

    応用問題別解