一夜漬けで覚える直接原価計算【固定費調整】

皆さん、こんにちは。直接原価計算シリーズも既に4回目となりました。もう既に一夜漬けで覚えるボリュームを超えている気もしますが気にしないで頑張りましょう(笑)
まず、前回までの記事を読まれていない方は先に読む事をお勧めします。

一夜漬けで覚える直接原価計算の概要
一夜漬けで覚える直接原価計算【CVP分析編】
一夜漬けで覚える直接原価計算【全部原価計算との違い】

今回はいよいよ固定費調整について学びます。
まずは下の公式を見て下さい。

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こんな公式を丸暗記して覚えられますか?
僕はちょっと無理です。公式だけ与えられて数字埋めて解けと言われてもそれでええんかって思っちゃいます。もちろん合格だけを考えたら公式をゴロ合わせでも何でも無理矢理覚えて解けばいいのかもしれませんけど、個人的にはあまりオススメ出来ないかなぁと思います。内容を理解出来た上で丸暗記するのなら良いとは思いますが、悲しいかなほとんどの受験生は公式を丸暗記してパターンで覚えちゃってるのでは無いかと思われます。

そこで、今回はその理屈を少しでも知って貰おうと考えて作成しました。
最悪、公式を忘れても何とか解けるレベルまで達してくれれば嬉しいなぁと思います。
そもそもどうして全部原価計算と直接原価計算の利益がズレるのでしょうか?

-直接原価計算は製造固定費を製造原価にしなかったですね。これが原因ですか?

うん、そうだね。
直接流では製造固定費を全て一気に(期間)費用にしちゃった。でも製造固定費は製造原価だから作った製品が売れないと売上原価にしないのが会計のルールだろ?前にも触れたと思うけど・・・結局、直接流と全部流では費用にするタイミングがズレているので利益がズレてるって事なんだ。でも言ってることがサッパリ分からないだろ?

とりあえず、今までの直接原価計算の知識は全部無視して次を読んでみて欲しい。
太郎君と次郎君のロボット製作物語だ。変動費とか固定費も考えないで物語を読んでくれたらいいよ。

太郎君と次郎君はロボットを¥2,000で制作して¥4,000で売ろうと考えている。太郎君はロボット製作に掛けた費用を集計して、会計のルールに従ってロボットが売れた時に費用として計上しようと考えている。しかし、次郎君はルールなんてクソくらえ、掛かった製作費用はすぐ費用として計上しようと考えた。

何が言いたいのか大体想像がついたと思うが先に進めてみよう。

まずは、当期に¥2,000のロボット製作費を掛けて当期に¥4,000で売った場合だ。
これをAパターンとしようじゃないか。

 

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まず、規則を守る太郎商店の方だが当期に製作費が¥2,000掛かったが、当期に売ったので費用になるのは¥2,000だ。次郎商店はルール無視で製作費が¥2,000発生したから全部当期の費用にした。結果的に、太郎商店と次郎商店の利益はたまたま一致しているが、太郎商店と次郎商店の考え方がまるっきり違うのは理解出来たと思う。

次はBパターンに進めてみよう。当期に作って売れなかった場合だ。

 

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さっきは作ったロボットが売れたので問題にならなかったが売れ残った場合はどうだろう。
次郎商店は終始一貫していて、ロボットが売れようが売れまいが発生した製作費用をそのままダイレクトに当期の費用にしている。太郎商店は当期に売ってないので当然費用にはしていない。つまり上図の赤丸部分がズレたことにより最終的な利益がズレる結果になったんだ。

これは太郎商店が売れなかった製作費用を期末製品として資産に計上したからなんだよ。
つまり、期末製品の金額は費用にならなかった金額ということになるね。

次にCパターンを確認しよう。前期から繰り越されたロボットがまたも売れなかった場合だ。

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CパターンはBパターンの翌期だと考えて貰うと良いかもしれない。
前期にロボットが売れなかったので、当期に何とか売りたかったが結局売れなかったケースだ。実はこのケースだと太郎商店と次郎商店の利益はズレないのだ。何故なら太郎商店は何も売ってないので費用にするものがなく、次郎商店の方は製作費用が発生しないので費用にするものがない。つまりどちらも費用にするものが無かったので利益が一致したと言える。

次はDパターンだ。前期に売れなかったロボットを当期に売った場合だ。

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この場合は太郎商店と次郎商店の利益はしっかりズレる。
何故なら、太郎商店はロボットが前期に売れなかったので、製作費用を費用にしないで資産として繰り越したが、当期は売れたので製品(資産)から売上原価(費用)に振り替えたからだ。次郎商店はもう前期に費用にしているので当期は費用にするものがない。そもそも次郎商店には在庫という概念はないのだ。

ここまでのパターンを見て利益がズレるケースは、製作費用が発生した期に売れ残った場合、又は、前期に売れなくて当期に繰り越されてきた在庫が売れた場合の2つだ。

それでは最後にEパターンを確認してみよう。前期にロボットを製作して売れなくて繰り越されてきた上に、当期は更にもう1台ロボットを製作して、そのうち1台だけ売れた場合だ。

 

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このケースも太郎商店と次郎商店の利益に誤差は生じなかった。どうして利益が一致したかというと、太郎商店で売上げたために費用にした金額と、次郎商店が今月の製作費用として計上した金額がたまたま一致したからに他ならない。このように当期の製作費用のうち売れなかったものがあったり、前期に売れなくて繰り越されてきた製品が当期に売れた場合でも利益がズレないことはあるのだ。

そこで問題。太郎商店が当期に費用にした¥2,000は①の期首繰越分か、②の当期製作費用部分かどちらでしょうか?

①だったらDパターンになって利益がズレるが、②の方が売れていたらAパターンだから利益がズレないの??と考えてしまいそうだけど心配ご無用。例えば①の方が売れたDパターンと仮定するなら②は期末在庫になるのでBパターンになって逆方向に利益がズレる。もし、②の方が売れていたAパターンと仮定するなら①は期末在庫になるのでCパターンになる。

つまり、Dパターン&Bパターンの組み合わせか、Aパターン&Cパターンの組み合わせになるかだが、2つを合計するとそれぞれの利益は同じになる。ここまで考察して太郎商店と次郎商店で利益がズレないパターンに法則があることが分かった。

期首在庫金額 = 期末在庫金額 が成立すると太郎商店と次郎商店の利益にズレは生じない。

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冷静に考えると当然なのだが、太郎商店はBOX右上の売れた完成品を費用にしているのに対して、次郎商店は左下のBOXを投入部分をダイレクトに費用にしているのだ。そう考えると期首(左上)と期末(右下)の金額が同じだと、必然的に青い部分の金額は左右で一致するのは理解出来ると思う。

ここまで読んでみて太郎商店が全部原価計算と似た計算の仕方で、次郎商店が直接原価計算に似た計算の仕方かなと思ったあなたは多分原価計算の天才だろう。まあでも、ここは直接原価計算も全部原価計算も忘れてもう少し楽しみながら読み進めて欲しい。

全部原価計算は、製造費用を仕掛品勘定から製品勘定を経て最終的に売れたものを売上原価(費用)に計上するのが一連の流れだった。さて、その複雑な図解を下に載せたので見て欲しい。

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ちょっと複雑になったが普通の原価計算はこのような流れで計算してたよね?
期首の金額と期末の金額が同じになると、本当に太郎商店が費用にしている部分と次郎商店が費用にしている部分が同じになって利益がズレないのか確かめてみよう。

結論から先に言うと、仕掛品と製品の期首合計金額と期末合計金額が同じだと青い部分も同じ金額になるので利益はズレない。これを証明してみせよう。

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仕掛品勘定と製品勘定を縦に合体させて並べ替えると上図の右の部分になる。
緑色の完成品のBOXは必ずイコールの関係なので無視してその上の部分に注目してみよう。青い部分の投入と完成品の金額が同じだと、必然的に期首の合計金額と期末の合計金額が同じにならないとBOXの左右の金額が同じにならないことに気付かないか?

-なるほど~。つまり期首在庫合計と期末在庫合計が一致すると太郎商店の利益と次郎商手の利益がズレないっていうことですか・・・

結論から言うとその通り!!
太郎商店は全部原価計算の計算方法で次郎商店は直接原価計算の計算方法だったのは薄々気付いていただろうと思う。そこでもう一度冒頭の固定費調整の公式を思い出して欲しいんだ。

全部原価計算の利益 = 直接原価計算の利益 + 期末仕掛品・製品の(固定費)金額 - 期首仕掛品・製品の(固定費)金額

-ああ、確かに意味は分からないけどこんな公式でしたね。

これを並べ替えると・・・

全部原価計算の利益 - 直接原価計算の利益 = 期末仕掛品・製品の(固定費)金額 - 期首仕掛品・製品の(固定費)金額

要するに太郎商店と次郎商店の利益の差は、期末と期首の仕掛品・製品の金額の差額と言えるってことなんだよ。固定費調整の公式も少しだけ理解出来たかも・・・と思えればそれでOK。この公式の意味を何となくでもいいので理解して欲しかったんだ。

最後に利益がズレるパターンを確認してみよう。
さっきの縦に並べ替えたBOX図で完成品部分をカットしたと思って欲しい。

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今度は太郎商店が費用にしている部分と次郎商店が費用にしている部分に金額の差が出た。
つまり、太郎商店が費用にしている金額が次郎商店より大きいので、利益は逆に太郎商店の方が小さくなる。でもこの青色の部分の差額は期首と期末の金額の差額でもあることを確認しよう。

直接原価計算の利益 - 全部原価計算の利益 = 期首合計金額 - 期末合計金額

つまり、このように表すことが出来るんだ。
逆に期末合計の金額の方が大きい場合は分かるかな?その場合は次郎商店、つまり直接原価計算の費用の方が大きくなるから逆に利益は太郎商店、つまり全部原価計算の方が大きくなる。

全部原価計算の利益 - 直接原価計算の利益 = 期末合計金額 - 期首合計金額

このように表すことが出来る。
固定費調整の公式を忘れた時は、是非とも上のBOX図と太郎商店と次郎商店の話を思い出して欲しい。上のどちらかの式が出せればそれを変形すれば固定費調整の公式は地力で出せるぞ(・∀・)

もう一度固定費調整の公式を再掲しようじゃないか。

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最初は絶望的な気分になった上記公式も少しは慣れ親しんで頂けたのではないだろうか?
固定費調整でここまで力を入れて語ってるテキストやWEBサイトはどこにもないと自負しているが、そもそも固定費調整って何だろう?って思ったのではないだろうか?

そもそも会計のルールでは売れていない製品は費用(売上原価)にしてはいけないという決まりになっていた。だから全部原価計算の利益しか認められていない。でも社長とか利益計画を立てたりするのに便利なので直接原価計算の損益計算書を作ることもあるだろう。でも、会計のルールで直接原価計算の利益は認められていないので、最後に期末在庫の金額と期首在庫の金額の差額を調整して全部原価計算の利益を導き出すのが固定費調整なんだ。

つまり会計で認められない直接原価計算の損益計算書を作っても、ちょっと調整するだけで全部原価計算の利益が出せるので使ってもいいよねって発想なんだな。

それではようやく本格的な練習問題を解きながら一緒に学んでいこう。

問題を解く前に直接原価計算の復習をしよう。
全部原価計算の利益と直接原価計算の利益はどうしてズレるのだろう?今までの流れから費用にするポイントがズレているので最終的な利益がズレたと理解したとは思う。特に直接原価計算は売れようが売れまいが費用は全部その期の費用としてダイレクトに計上する特徴があった。

しかし、これはあくまで製造費用のうち固定費部分に限った話だということをもう一度確認して欲しい。

利益がズレるのは固定費のみで変動費は決してズレない。変動費だからズレないのではなくて、全部原価計算も直接原価計算も変動費は同じ計算をするからズレないのだ。つまり変動費部分は売れ残ったら当然費用にしないで棚卸資産として翌期に繰り越すということ。

分かりやすく説明するために、先程の次郎商店は製造原価全部を期間費用にしていたが、直接原価計算では一部(固定費)を期間費用にするのだ。ここは大切な所だからもう一度説明させて貰った。

ではでは、改めて練習問題を解いて貰おう。

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最初に断っておくが日商2級の本試験レベルよりかなり難しい問題だと思う。本試験で出題されたら阿鼻叫喚だろう(笑)しかし、最近の本試験の傾向を考えると練習ではあえて難しい問題を解いておいた方がいいような気がするんだ。それに試験じゃないから時間は無制限にある。今までの知識を駆使してゆっくり落ち着いて解いてみよう。ややこしく感じるが2級の知識で十分解ける問題だ。

解答は次回発表するのでそれまでにチャレンジして欲しい。
オリジナル問題なので、もし問題に不備があった場合は笑って許して欲しいw

ノーヒント。

と言いたいところだが、ヒントが欲しい人は次を参考にして欲しい。
この問題で一番難しく感じるのは月初仕掛品に含まれている固定費の金額だ。実は先月以前の生産データが示されていないので月初仕掛品に含まれている製造固定費は算出のしようがない。固定製造費が毎月9,200円発生しているのは分かるが、作った個数によって1個あたりの固定費がその都度変わるので普通で考えると算出不能だ。しかし問題をよく読むと、製造原価のうち変動費については毎月一定で1個あたりの原価が示されている。つまり、月初仕掛品の加工費3,300円のうち変動加工費については算出可能なのだ。すると必然的に残りの部分は固定加工費だと気付くだろう。

あと、下にすぐに解答出来て埋められる箇所は色塗りで示した。まずそこを計算してみよう。
この問題は変動製造費が毎月一定なので直接原価計算の損益計算書は速攻で解答出来る。1個あたりの製品原価が問題文に書いているので固定費を無視して標準原価計算のような感じで計算するだけだ。2級は標準直接原価計算は範囲外なので本問では苦心して実際原価を使っているだけだ。

これからの2級は解けるところから先に解いていくという国家試験並の解答戦略が必要になるかもしれない。そんな練習にもよいと思う。是非頑張って完答することを期待するよ。

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